VAULTING POLE -made in JAPAN-(開発チーム)

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PandA創業者の「武田理」です。

2021年に、かねてからの夢の一つであった、競技普及のための上質で低価格な「国産ポール」を開発し、市販化を達成いたしました。

筑波大学スポーツR&Dコア(PandA前身)と国内企業が共同で取り組むことで、

わずか1年※1 で膨大な量の試作ポールを基に実験、知見を蓄えて製品として世に送り出すことができました。

産学連携で誕生した日本製棒高跳ポールです。

※1 創業者の武田が涙を流し、汗をかいた期間は +20年です。詳しくは、開発秘話をご覧ください。

開発チーム

研究・開発主体

筑波大学Sports Reserch & Development Core(PandA前身)

スポーツRandDコアは、文部科学省が実施した「チーム『ニッポン』マルチサポート事業(のちに、スポーツ庁が実施する「ハイパフォーマンス事業」)の一環として、筑波大学における研究開発プロジェクトの円滑な運営のために2010年7月8日に設立されたものです。

設立当時の大学、研究機関、民間企業と連携するオールジャパン体制の構築によりトップレベルの競技者に対する競技用器具、トレーニングなどの複数のコア研究を用いた高度な支援に必要な研究開発を行うことを目的としていました。

2022年3月に解散することが決まっていたので、組織が所有する研究成果等を世の中に還元するために当社は生まれ、前プロジェクトでFRP(ポールの主素材)での用具開発にかかわってくれていたメンバーを中心に行った最初の成果としてこの国産棒高跳び用ポールの開発を成し遂げました。

 

 

素材選定・供給

日東紡績株式会社 様

ポール専用グラスファイバーの設計・供給

日本初のグラスファイバー工業化を実現した企業様です。

2014年に他のプロジェクトのプレゼンでのご訪問時に「棒高跳ポールを開発するのが個人的な夢でもある」と書き添えたところからスタートし、温め続けてきた企画でした。

棒高跳ポール専用にガラスクロスを設計、スポーツ用として供給いただいています。

 

三菱ケミカル株式会社 様

プリプレグ製造・樹脂選定

ポールの製造には、樹脂とガラス繊維が一体となったプリプレグ(グラスファイバーの織物:樹脂とガラスくっつけたもの)を使用します。

ゴルフクラブのシャフトなどスポーツ用品に適した樹脂の選定、棒高跳の特性、ポールの要求機能を基にした知見提供、プリプレグ化したグラスファイバーの供給をいただいています。

 

支援者

2020年2月にREADYFORにて、国産棒高跳ポールの開発を目指して、クラウドファンディングを実施しました。

72人の支援者から172万円を頂戴し、その応援のおかげで研究が加速しました。その成果を基に、棒高跳用ポールを製造し、販売しています。

 

研究成果を社会に貢献する

前述の通り、本ポールは、日東紡績社製の航空機などにも使用されている高性能グラスファイバーを棒高跳の競技特性に合わせて専用設計し、

ゴルフクラブにも使用される三菱ケミカル株式会社製のスポーツ用樹脂で構成されています。

協力企業様と筑波大学スポーツR&Dコア(PandA前身)のチームと多くの支援者の応援によってつくられました。

 

競技普及のため、上質で低価格な国産ポールを作ることで、競技の入口のハードルを下げることができ、また、育成年代の競技者たちの記録向上の一助にもなると考えました。

そして、競技人口が増加して、大きな人口ピラミッドを構成し、オリンピックや世界大会で活躍する選手が出てきて、もっと人気が出ていき、また競技人口が増加する…そんな循環を作る一端を担えればと考えています。

ゆくゆくは、昔のように国産ポールで世界大会でメダルを取るような選手が現れてくれば、こんな嬉しいことはありません。

これは、研究開発という側面と、教育機関としての大学が担う、「研究成果を社会に貢献する」という大きな役割、使命でもあると考えます。

 

開発秘話

※ここからは長文なので、興味のある方のみご覧ください。

競技を普及するため、上質で低価格な国産ポールを作りたい。

スタートはこの気持ちからでした。

そして、それを説明するために、

  • 自分について
  • 普及のための越えなければいけないもの

の話をさせてください。

 

創業者自身の話

私は、企業や大学で研究者として、スポーツ用具の研究開発を行っています。

特に棒高跳びという競技は中学に始め、競技者、研究者、指導者として20年以上関わりを続けています。


近年は、特に、初心者に棒高跳を教える機会も増えていて、

教えた方の記録が伸びたとき、跳べた時、狙った動作ができた時、何かができた時の笑顔や楽しそうな様子に触れることは、とても嬉しいことだと感じています。

 

棒高跳に魅せられて。

棒高跳の魅力は、やはりポール一本で4~6mという非日常の世界へ挑むことができるところだと思っています。現在の世界記録は、6.21m(2022年8月)。マンションの3階に相当する高さです。

自己ベストの高さに挑戦する時、もちろん恐怖を感じることもありますが、それ以上に挑戦したいと思わせるワクワク感と跳び越えた時の爽快感があるため、挑戦しない選択肢はないのです。

また、これは競技者であれば経験したことのある人も多いかと思いますが、高いバーを超える時の感覚・景色が独特で、スローモーションになったり、細部まで覚えていたり、体感したらやめられない魅力もあります。

大学3年次からは、阿江通良先生に師事し、選手としてだけではなく、研究者としても棒高跳に関わってきました。

棒高跳びは、ポールに依存する部分が大きい競技でもあるため、ポールに関する研究はまだまだ調べることも、発見することもたくさんあります。

跳躍に関しても、力学的な側面が大きい競技で、人の動きだけでは単純に解明できない部分が多く、研究のやりがいが多くある競技です。

結局、中学で始めてから20年以上、いまだに棒高跳の魅力に取り付かれています。

 

そんな棒高跳ですが、インターハイの正式種目(2017年にインターハイ女子の正式種目となりました。)になるなど、注目が集まり始めています。

しかし一方で、これから競技を始める選手や初級・中級者の方は、とても高いバー(ハードル)に直面します。

 

棒高跳び競技者が直面する問題

1.使用するポールの選択肢が少ない

棒高跳は、言葉の通り「棒(ポール)」を使用する競技です。

ご存じの通り、経験や技術が上がり記録が伸びるにつれて、使用するポールの長さや硬さも変えていく必要があります。

しかし、小柄な日本人に合うポールの選択肢は以前はとても少ないものでした。

輸入ポールは、海外の体格のいい選手に合わせて作られているため、小柄な体形の、特に競技を始めたばかりの競技者が選べるようなポールはほとんどありませんでした。

そのため(+指導者や場所の制約などの課題も相まって)、日本では、中学校から競技を始める競技者が多いのが現状です。

棒高跳びを普及させていくためには、幼少期から競技を体験したり本格的に始めることができる環境を整えていく必要があると考えていますが、

特にそういった子どもや女子選手などの体格やレベルに応じた、短く柔らかいポールの選択肢が必要です。

PandAが販売するポールは、子どもや女子選手などの体格やレベルに応じた、短く柔らかいポールを多くそろえていますが、まだまだ行き届いてはおらず、

現状は、部活の先輩の使っていた中級者・上級者向けのポールを使用せざるを得ないことも多く、ケガなどにもつながる状況で、競技普及以前の問題を抱えています。

2.ポールの価格が高い

「じゃあ、ポールを買えばいい」と思うかもしれませんが、ポールは1本5万円以上はしますし、長くなると10万円を超えてしまうものがほとんどです。

また、海外からの輸入になるため、送料などの+αのお金もかかります。そうなると、個人でも学校の部活でも簡単に揃えることは難しいのです。

参考(2019年時点の金額のため、現レートではもっと高い)
  • 9フィート=6万円
  • 14フィート=約10万3000円
  • 16フィート=約12万7000円

※いずれも税抜き、別途送料がかかります。

※男子の中学生、高校生などで昔から多く供給されているのは14フィートから15.7フィートの帯域。女子選手だと12フィートから13フィートが主流となります。

通常棒高跳は1試合で1人3~5本近く持っていくため、単純に考えて30~50万円をポールに使うことになります。

(前提として、長さや硬さが違うポールをそれぞれが競技力に応じて使い分ける必要があります。)

しかし、学校の部活など予算が限られていたり、個人活動になるマスターズなどにおいても、1本6万~10万円近くするものを簡単にそろえることはできないのに、適切なものを3本も5本もそろえることは現状不可能に近いです。

その結果、価格が高さから簡単に捨てることができず、耐用年数以上の期間使ってしまったり、多少の傷でも使ってしまい、事故につながるリスクもどんどん高まることになってしまいます。

 

我々が目指すこと。

2019年、これまでのスポーツ用器具の研究開発の経験、そして私自身が競技をしてきて、また棒高跳という競技の研究をしてきた経験と知見を活かし、

大学院で棒高跳の研究をしている仲間とともに「国産で、安全で品質も高めた、でも価格を抑えたポール」を開発しようと決起し、安価で質の良いポールの試作を行い、そして市販にまでこぎつけました。

そのことは、競技の入口のハードルを下げることができ、また、育成年代の競技者たちの記録向上の一助にもなると考えました。

しかし、PandAが販売するポールは、海外製よりは価格は抑えたものの、そもそもの材料が高い上に、大量生産できるものではないため、まだ当初目指した価格帯にはできていません。

国産ポールを作るという大きなプロジェクトを達成できた我々は、それらの課題を含めこれからも新しい課題に挑戦しています。

 

サブスクの仕組み

一つは、開始時期は未定ですが、ポールのサブスクの仕組みを作ること。

学校での部活動でも、生徒の入れ替わり、先生の移動などで、強い選手が居た時はいいけど、いなくなったらポールは邪魔になってしまいます。

それなのに、たくさんのポールを抱えることはリスクが高く、なかなかできません。

ポールは、選手の分だけ必要なだけ、記録が伸びたら、変えるなど。自由に好きなポールを使える仕組みでお渡しできる制度を模索していきます。

 

環境整備

また、中高生やより小さな年齢の子どもたちでも、価格を抑え気軽に棒高跳に挑戦できる環境を整えたいと思っています。

棒高跳びが盛んな都府県には、そのような施設があります。(群馬県:ベルドーム、鹿児島県:ジャパンアスリートトレーニングセンター大隅、香川県:丸亀競技場など)

まずは、茨城県で、棒高跳びの競技施設を整備していこうと思っています。(BaseJumpご参照)

 

受注生産から在庫販売

現状は、コストを抑えるためにほぼすべてのサイズで受注生産とさせていただいておりますが、いずれは、ほとんどのサイズで在庫を用意し、

オーダーからすぐに手元に届けることで大事な大会などで最大限の力を発揮できる武器にしてもらえるようにできたらと思っています。

そのためには、もう少しコンスタントに販売できることが必要ですが、近い将来に実現できるようにしていけたらと思っています。

 

世界大会でメダルを…

国産ポールで世界大会でメダルを取るような選手が現れてくれることを期待し、今後もより好記録を狙えるポールの開発を行っていきます。(すでに、Leapに変わる次のハイエンドモデル(フラッグシップモデル)の試作に着手しています。)

 

全てのピースを力に…

筑波大学スポーツR&Dコア(PandA前身)では、下記を行いました。

  • 武田が自己で使用したことがあるポールの種類:70本以上(購入したポール:40本以上)
  • 武田が初めてポールの開発にかかわってから:15年
  • 自前の試験装置の製作にかかった費用:218万円
  • 仕様決定までに作った試作ポールの数:30本以上
  • 仕様決定後に作ったポールの数(長さを変えたらどうなるか、など):40本以上

大学院時代に、初めて某国内スポーツメーカーと共同研究開発に携わり、初期の試作品の性能評価の面で関わる機会がありました。

試作品が完成し、14fで当時の日本記録を出すことに成功しましたが、15f以上を作ることができず※2 プロジェクトは終了となりました。

※2 細いままだと重くなりすぎてしまい、軽くしようとすると太くなりすぎてしまい、
素材の特性上どうにもならない課題を解決できず、素材選定から行う必要性がありましたが、当時の某社の取引先からは最適な素材を探すことができませんでした。(つまり素材開発から必要)

そこから15年、どうして、ポール開発に初めてかかわってから、15年もの月日がかかったのか。

その当時は、競技者として、研究者としての棒高跳びの経験しかなく、どうしても「モノづくり」と、「市販」(市販をするには、一人の選手に合わせた調整とはまた異なる課題がある)の難しさをクリアできませんでした。

足りないピースがあったのです。

その後、筑波大学スポーツR&Dコア(PandA前身)の研究職について、2013年から別の競技の用具開発で、FRPというものに改めて着目し、

そこから素材についても勉強し、その用具開発でさらに、ものづくりを学びました。

その後、材料や樹脂、構成(作り方、織り方)などを調査し、実際に作れる設備を持つ企業様を見つけて協力を取り付けることができました。

2019年にようやく2本の試作ポールをつくり、その後、クラウドファンディングで多くの支援者が応援してくれたおかげで、試験装置や多くの試作ポールを作ることできました。

過去のすべての経験や出会い一つ一つの大切なピースが揃って初めて、PandAポールができた、と言えるでしょう。すべてのピースに意味があるのです。皆さまとの出会いに感謝します。

これからも、完成したポールを普及し、愛用してくださる方を増やしていくことで、幅広い年代の人たちが棒高跳の魅力に触れる機会を増やしていくことを目指し、

そして、いまだ解明されていない棒高跳の競技・ポールの特性の研究も進め、競技の奥深さや魅力をより高めていきます。

創業者  武田 理